わたしと牛乳

食卓に彩りを──牛乳パックに込めた「好き」のかたち/デザイナー・亀山鶴子さん

更新

ひと口の牛乳にも、物語がある。牛乳を愛し、魅力を伝えている“ミルクインフルエンサー”たちが語る牛乳愛。1杯の牛乳の向こうに広がる、味わい・出会い・ストーリーとは──。第3回は、独自に牛乳パックをデザインし、SNSで発信することで牛乳への愛を表現してきたデザイナーの亀山鶴子さん。制作の背景にある思いと、日常の中での牛乳との関わりについて語ってくれました。

自らがデザインした牛乳パックを手にする亀山さん。お気に入りの北海道酪農のアンテナショップ「MILKLAND HOKKAIDO→TOKYO」(東京・自由が丘)にて。

「おいしい!」からスタートした、牛乳のある日常

亀山さんが牛乳を「好き」だと自覚したのは、小学校の学校給食の時間だったと言います。


「給食の時間に牛乳が余ると、先生が『持ち帰りたい人?』って聞いてくれるんです。私は必ず手を挙げていて。その時に、“あ、私って牛乳が好きなんだな”って、はっきりと意識するようになりました」


幼い頃から家でも牛乳は当たり前の存在。大人になった今も、その距離感は変わりません。夜、寝る前に少し温めて飲むホットミルクや、コーヒーにたっぷり注ぐミルク。夏には熱中症対策として意識的に口にします。


「特別なものではなくて、生活の中に自然にある飲み物。気が付けば、毎日の暮らしに欠かせない存在になっていました」

MILKLAND HOKKAIDO→TOKYOで提供されている、北海道牛乳の飲み比べがお気に入りだという亀山さん。

「もったいない」から始まったパッケージデザイン

亀山さんが牛乳パックのデザインをSNSに投稿を始めたきっかけは、2018年9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震でした。


北海道全域が長時間停電し、大量の牛乳が廃棄されたニュース映像を目にして、亀山さんは胸が痛んだと言います。


「仕方のないことだと分かっていても、やっぱり“もったいない”と思ってしまって……。牛乳が好きだからこそ、何かできることはないかな、と考えるようになりました」


デザイナーの亀山さんにとって、牛乳パックをデザインすることは、以前から心惹かれていたテーマ。どこに発表するともなく、気が向けば趣味として描くこともありました。


「オリジナルの牛乳パックを考えてSNSにアップすれば、少しでも多くの人に牛乳について考えてもらうきっかけになるかもしれない。牛乳への愛情を、自分にできる形で伝えてみよう」


そんな思いで独自に牛乳パックのデザインを始めると、頭の中に次々とイメージが浮かんできたといいます。「牛乳パッケージを勝手に考える、はじめました。」と題し、9月8日には最初のデザインをX(旧ツイッター)で公開しました。

最初に発表した「一番星牛乳」と名付けた架空の牛乳パックのデザイン。(画像提供:亀山さん)

「毎日新しいアイデアを考えるのがとても楽しかったです。たとえば“朝の食卓に花束みたいな牛乳パックが置いてあったら、いいかもしれない。” そんな想像をしながらひとつひとつデザイン案を作っていきました」


亀山さんがインターネット上で公開しているポートフォリオでは、華やかな花束をイメージしたパッケージのほか、フェルメールの絵画『牛乳を注ぐ女』をモチーフにしたパッケージ案など、独自にイメージしたこだわりの牛乳パックのデザインがずらりと並んでいます。

食卓を彩る花束をモチーフにした「食卓に飾れる牛乳パック 花束牛乳」のデザイン(左)やフェルメールの絵画をモチーフにしたデザイン(右)。(画像提供:亀山さん)

日常を彩る、牛乳パックという表現

これまでに制作したデザインは50点以上。赤べこやこけしのイラストなど、親しみやすいモチーフが話題を呼びました。

福島県会津地方の郷土玩具「赤べこ」をイメージしたデザイン(左)と東北発祥の伝統工芸品「こけし」をイメージしたデザイン(右)。(画像提供:亀山さん)

一方で、古代メソポタミアの神話に出てくる守護神「LAMASSU(ラマッス)」をテーマにした、少しマニアックな作品も。知性を象徴する人の頭、牡牛の体、鳥の翼を持ち、邪悪な存在を追い払うという姿を、牛乳パックの立体をうまく活用してデザイン。見る位置によって絵柄が変わり、新鮮な驚きを与えます。


「牛乳パックを通じて、例えばお母さんと子どもの間で『これ、なんだろう?』って会話が生まれたら楽しいだろうな、と思いながら制作しています。身近にある牛乳パックを通じて日常を彩りたい──その思いが、私の中で一貫したテーマなのだと思います」

単なる架空のパッケージデザインやアートとしてではなく、「実際に販売されること」を前提に考え抜いた亀山さんのデザイン。右下のデザインが古代メソポタミアの守護神をテーマにした「LAMASSU(ラマッス)」牛乳。(画像提供:亀山さん)

牛乳パックのデザインを始めて2年後の2020年には、SNSなどを通して牛乳の輪が広がり、日本製紙株式会社の研究所「カートンラボ」が主催する「未来の!?牛乳パックミュージアム」という企画に声をかけられて参加しました。亀山さんのデザインが、実際に紙パックとして形になった瞬間でした。


「私のデザインが印刷された牛乳の紙パックを手に取った時は、本当にうれしかったです。いつか本物の牛乳が入ったパックとしてスーパーに並んだらいいな、という夢が、少し現実に近づいた気がしました」

日本製紙の企画で実際に紙パックになったデザインを手に喜びを語る亀山さん。

牛乳の魅力を、これからも自然体で

亀山さんにとって、牛乳の魅力をひと言で表すとすれば「おいしい」なのだと言います。


「昔から当たり前にあるけれど、牛乳ってすごい飲み物だと改めて思います。そのままでもおいしく、お料理にも使えて、形を変えて生活に寄り添ってくれる。私にとって牛乳は、“推し”なんだと思います」

SNSで発表を始める前に最初にデザインした牛乳パックのイラストを、オリジナルのグラスに仕立て、今も愛用している。

亀山さんの現在の目標は、これまでに書き溜めてきた牛乳パックのデザインを、ひとつの場に集めて個展を開くこと。


「どのデザインも私にとっては思い入れが深く、いつか皆さんに見ていただけたらと思っています。牛乳を飲みながら楽しんでもらえたら嬉しいですね」


その先にあるのは、デザインが作品としてだけでなく、実際の暮らしの中で使われる未来です。いつの日か生産者とつながり、自らのデザインを使った牛乳パックが実際に店頭で販売され、誰かの食卓を彩る日を目指して──。


亀山さんの「好き」は今日も新たなデザインを生み出し、牛乳の可能性を広げています。


撮影協力/MILKLAND HOKKAIDO→TOKYO


文/谷岡碧 写真/松田麻樹

亀山鶴子(かめやま・つるこ)

イラストレーター・グラフィックデザイナー。『くもんの集中講座 ぐーんと強くなる』シリーズ(くもん出版)の装画をはじめ、書籍の装画やロゴマーク、キャラクター制作などを手がけている。2018年の北海道胆振東部地震で牛乳が廃棄されたニュースをきっかけに、牛乳への思いをのせた独自の牛乳パックデザインの制作を開始。これまでに50点以上を制作している。

Pickup Contentsピックアップ
コンテンツ