地域の生産現場から

安心、安全、美味しさを追求して子どもたちに笑顔をもたらす/中央製乳(愛知県豊橋市)

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愛知県の南部に位置する渥美半島は一年を通じて温暖な気候に恵まれ、農業や酪農が盛んなエリアです。中央製乳はこの地で1937年に創業。“地元のものは地元で消費する”という想いの下、酪農家との強い絆を築いて牛乳づくりに取り組み、県内の学校給食牛乳に占めるシェアは5割以上を誇ります。子どもたちへ安全な牛乳を届け続けるための妥協なき想いと、鮮度を追求した独自の挑戦に迫ります。

愛知の子どもたちの成長を支える学校給食牛乳

豊橋市・田原市を中心とする酪農地帯に位置する地の利を活かし、新鮮な牛乳を地域に届けることにこだわり続けている中央製乳。特に看板商品の「中央牛乳」は、鮮やかなパッケージカラーから「赤パック」「赤箱」と呼ばれ、愛知県民に愛され続けています。


「この地域に深く根付いていることが、私たちの最大の強みです。酪農家と非常に近い距離にありますから、地元のものは地元で消費するという地産地消のモットーを掲げています」と、販売部部長の草柳朋さんはこの土地への感謝を込めて語ります。「遠方から運ぶのではなく、地元で搾乳されたものを一番フレッシュな状態で食卓に届ける。これが私たちの使命です」

看板商品の「中央牛乳」は、約40年前に製造が始まったロングセラー。
看板商品の「中央牛乳」と同じ名前を持つ、「中央牛乳 愛知産生乳限定」。県内の学校給食で使われている牛乳と同じ生乳、同じ製法で製造を行っている。

中央製乳の歩みを語る上で欠かせないのが、学校給食への貢献です。その供給規模は近年拡大を続け、今や愛知県の学校給食牛乳の半数を担っています。2012年までは豊橋市・田原市を中心に1日あたり約4万5,000本を生産して子どもたちに届けていましたが、2013年、同業他社の廃業に伴い岡崎市や幸田町などの地域も受け持つことに。1日あたりの供給本数は一気に約10万本へと倍増しました。


「生産能力が追いつかなくなる事態でした。そこで急遽、紙パックの機械を導入し、新たな生産体制をスタートさせました」と、製造部の水口悟さんは当時を振り返ります。その後も他社の廃業が重なり、知多半島全域、名古屋市の一部、刈谷市・半田市・豊田市エリアなどを次々とカバーし、2019年には県内乳業メーカーの学校牛乳からの撤退に伴い大規模な供給を引き受け、供給本数は一挙に36万本まで跳ね上がりました。


「現在、愛知県全体の学校給食におけるシェアは53%。愛知県の半数以上の子どもたちが、中央製乳の牛乳を飲んでいるわけです。これほど長くこれだけの本数を供給し続けているメーカーは日本中探してもそう多くないのではないでしょうか。私たちは日本一の学校給食メーカーだと自負しています」と、草柳さんは語ります。

左から販売部部長の草柳朋さん、品質管理部の田嶋依子さん、製造部の水口悟さん。
加熱殺菌後、タンクで冷やした牛乳を紙パックに充填する過程。
工場は2交代で操業し、安定供給を実現している。

冷たさと安全へのこだわり。未来へ継承する品質

1日あたり数十万本の牛乳生産を支える裏側には、妥協のない安全管理があります。全商品を対象とした徹底的な検査は、社員が一丸となって取り組む日課です。「特に神経を使うのが物流です。冷蔵品である牛乳を、夏の暑い日でも学校に届く時には10℃を超えないように厳重に温度管理を行います。これは至難の業ですが、私たちは全社員が『自分の子どもが飲む』『きょうだいが飲む』と置き換えて考えることで、品質と安全への意識を最高水準に保っています」と、品質管理部の田嶋依子さん。


学校給食は365日あるわけではなく、全国平均で190日ほど。一方、搾乳期間に入った牛は毎日搾乳する必要があります。このような需要の変化に対応できるのは、中央製乳が総合乳業メーカーであることが大きな理由。乳飲料やヨーグルト、アイスクリームやバターといったさまざまな製品を手がけ、年間を通じて生乳を無駄なく活用しています。

毎日たくさんの牛乳製品を、従業員が愛情を込めて届ける。
社員全員が定期的に実施する牛乳風味技能官能訓練の様子。


酪農家の情熱と一体となる「一円融合」の精神

大規模な供給体制を支えているのは社是の「一円融合」。製品づくりに関わるすべての人々を大切にするという精神を象徴する言葉です。「この言葉は二宮尊徳の教えに由来しています。自分たちだけが幸せになるのではなく、酪農家の皆様、地域のスーパー様・飲食店様、そしてお客様みんなで幸せになろうという考え方です。酪農と乳業の関係性は、車でいうと両輪。彼らの365日の献身的な努力なくして、私たちの事業は成り立ちません」と草柳さん。


温暖な渥美半島といえども酪農を取り巻く環境は厳しさを増し、酪農家の軒数は年々減少をしているものの、中央製乳は大規模化・効率化を進める酪農家を支援し、共に手を取り合って牛乳づくりを進めています。

大きなタンクが目印の中央製乳。地元で長く愛され続けている企業だ。

その象徴ともいえるのが、2007年に誕生した「どうまい牛乳」。“とても美味しい”という意味の方言からネーミングされた、鮮度を極限まで追求した限定牛乳です。きっかけは酪農家の女性部会の声。「自分たちの搾った牛乳がどう使われているか知りたい!」という声に端を発し、今まで以上に新鮮な状態で牛乳を販売できないかを探ることになったのです。「酪農家の情熱に心を打たれ、また“一円融合”の精神に立ち返り、利益ではなく酪農家との協力、そして消費者の笑顔のために商品化にこぎつけました」。通常、搾乳からパック詰めまでにかかる時間は48~72時間ほど。一方、「どうまい牛乳」は深夜1時~2時に生乳が工場に届き、同日朝7時までに殺菌し、その後パックします。出荷はその翌日から開始されるという、驚くべきサイクルを実現しました。


製造部の水口さんは製造現場の苦労も並大抵ではなかったと語ります。「『どうまい牛乳』の生乳は、他の生乳と混ざることが許されません。生乳が来るたびに、タンクを細かく分けるタンク操りという手間のかかる作業が毎日発生します。殺菌処理能力を上げるなど工夫を重ね、超新鮮な状態での出荷を実現しました」


この努力の結果、消費者からは「なんでこんなに美味しいの?」「ガブガブ飲めるね!」という声が寄せられるようになったといいます。酪農家との連携で生み出す超フレッシュな味わいは、今では名古屋のある尾張地域や、浜松など静岡県西部でも広く親しまれています。「どうまい牛乳」の生産が始まって以降、『子どもたちや地元の方々が、自分たちの絞った牛乳を飲んでいる』という誇りが強まりました。仕事をするうえで大きな励みになっています」と、生産者の一人、河辺(こうべ)敬一さんは話します。「中央製乳さんとは、どうまい牛乳の立ち上げからともに歩んできました。私たち酪農家と中央乳業が連携してはじめて、美味しい牛乳ができるのです」

「どうまい牛乳」生産者の一人、河辺さん。「『生産者の顔が見える販売がしたい』『地産地消に取り組む方法はないのか』という気持ちから、中央製乳さんと共同開発した牛乳です」と河辺さん。写真提供:河辺敬一さん

その後、豊橋市の酪農家の生乳だけでつくる「のんほい牛乳」も誕生。「のんほい」とは三河地方の呼びかけの言葉で、「ねえねえ、これ美味しいでしょ?」というニュアンスです。

渥美半島田原地区の酪農家さん限定の「どうまい牛乳」、豊橋市の酪農家さん限定の「のんほい牛乳」。その他、ヨーグルトや自慢のバターなどさまざまな商品を展開している。

食育活動に加え、牛乳の新しい楽しみ方を提案

中央製乳では社会科見学、小学校などへの出張授業、中学生の体験学習などを通じた食育活動を行っています。社会科見学では「どうまい牛乳」「のんほい牛乳」の飲み比べも実施し、参加した子どもたちは「味が違う!」と感動しているそう。味や鮮度を体験してもらうことで、牛乳は工業製品ではなく、その時々で味が変わる農産物であることの理解が進みます。

社会科見学がスタートする地点には牛の模型が置かれていて、撮影スポットになっている。

SNSでの情報発信も積極的です。品質管理部の田嶋さんはこう話します。「全国的には牛乳の消費量は減っていますが、SNSで飲むだけではない牛乳レシピを発信するなど、新たな可能性を探っています。安心、安全、おいしさを守りながら、時代に合わせた牛乳文化を発信していきたいと考えています」



酪農家の情熱、社員一人ひとりの妥協なき姿勢、そして日々牛乳を飲む子どもたちや家庭の存在。そのすべてが円となり、中央製乳がつくる製品の美味しさを形づくっています。地域の笑顔とともに紡がれてきた牛乳づくりの物語は、これから先も静かに、そして力強く続いていきます。


文/岩下加奈 写真/鈴木一生

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