地域の生産現場から

医食同源への想いと最新設備で実現する、安全・安心な牛乳づくり/トモヱ乳業(茨城県古河市)

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茨城県古河(こが)市の小さな乳業メーカーとしてスタートしたトモヱ乳業。関東のど真ん中という立地を活かして販路を関東一円に広げたことで、現在は日本トップクラスの生産能力を誇る会社へと成長しました。業界最高水準の機械化により安全・安心な商品を安定供給する同社の理念について、社長を務める中田俊之さんに話を伺いました。

茨城県の西端、埼玉県と栃木県の県境に近い古河市に工場を構えるトモヱ乳業。関東平野のほぼ中央に位置し、利根川や渡瀬川に囲まれたこの地に中田俊男さんが乳業専業メーカーをスタートしたのは1956年です。「三男坊で実家の乳業を継ぐことができなかった父は、これまで縁がなかった土地 で、関東畜産工業という経営危機に陥っていた会社を買い取り、ゼロからスタートしました。近隣の酪農家や販売店を一軒ずつ足で回りながら地道に販路を広げていくなか、生産者と乳業メーカー 、販売者が三つ巴となって協力することで地域の発展に貢献できると考え、トモヱ乳業という社名を決めたのです」と二代目社長の中田俊之さんは言います。

社名の上に掲げられたトモヱ乳業のシンボルマーク。「生産者・処理メーカー・販売者が三位一体となり、地域の発展に貢献する」という社の願いを象徴するものだ。

茨城、北海道、栃木、埼玉、東北などから運ばれた生乳は、敷地内のサイロタンクに補充される。
約1,000トンの生乳が貯乳可能なサイロタンクは国内トップクラス。関東から北海道までの新鮮な生乳をほどよくブレンドしている。

立地を生かした販路の拡大が成功の鍵

殺菌設備が現在ほど整っていなかった当時、牛乳の販売は県内で行うのが当たり前でした。ところが俊男さんは、他県にアクセスしやすく100km圏内に日本最大の商圏がある古河の立地に目をつけました。「東北本線(現・宇都宮線)や東北自動車道が近くを通っていたこともあり、首都圏から東北まで他県に販路を広げていった のがトモエ乳業躍進の最大のポイントだったと思います。さらに物流の発展に注目した父は、当時日本にできたばかりのスーパーマーケットを販路の中心に据え、いち早くプライベートブランドを手がけるようになります」


多くのメーカーが小さなトラックで各家庭に牛乳を届けていた1980年代 に、トモヱ乳業は大型トレーラーで県外のスーパーへ大量輸送を行うなど、俊男さんのビジョンは時代を先取りしていました。牛乳の価値を広めたいという創業者の一途な想いから次第に業績を伸ばしていったトモヱ乳業は、1994年古河市下辺見に最新鋭の設備を備えた新工場を建設。遠方のスーパーマーケットから視察に訪れた担当者がその場で契約を決めるほどの充実ぶりだったといいます。その第1工場も製造が追いつかなくなると、敷地の裏にさらに土地を購入し、2013年に第2工場を設立します。

医学博士でもある代表取締役社長の中田俊之さん(中央)は、健康の面から牛乳の魅力を広めたいと意欲を見せる。安全・安心のための取り組みを行う取締役品質保証部部長の小川寿郎さん(右)と生乳や原材料調達の責任を担う取締役購買部長の落合正行さん(左)とともに。
工場では1Lパックを製造できる充填機(毎時1万4,000本)9台、学校給食用牛乳を製造できる充填機(毎時1万6,000本)2台など合計18台が稼働している。
殺菌を終えてパックに充填される前のサージタンク。30トン入りのタンクが6台並ぶ様子は圧巻だ。

「土地を購入してから第2工場が完成するまでに8年かかりました。その間に東日本大震災を経験した教訓を生かし、安定供給に向けた設備をできる限り取り入れました。はじめに取り組んだのが全自動立体倉庫です。停電や不測の事態で製造ができなくなった時に備えて3日間分(1L牛乳換算で324万本!)を収納できる高さ18メートルの耐震型低温自動倉庫をつくりました。ここで全商品を入出庫し、トレーサビリティ(製造から出荷までの履歴管理)も行っています。また荷崩れを防止するために牛乳ケースの上部を自動でラッピングする機械も導入。敷地内には特別高圧変電所を設置し、停電にも備えています」。第1工場をつくる際は土地を1メートル嵩上げし、洪水対策も行うなど災害には万全を期しています。


規模を拡大しながらも大切にしているのが、地元小学校の学校給食用牛乳の供給です。「学校給食制度が始まって以来、ずっと続けています。看板商品『ふるさと牛乳』のパッケージは給食用牛乳のデザインとほぼ一緒でほとんど変わっていません。『ふるさと牛乳』を飲んで育ったお子さんが引っ越した先で『トモヱの牛乳が飲みたい』と言っているというお手紙をいただくこともあります。うちの牛乳は複数の産地の生乳をほどよくブレンドしていて味にブレがないのが特徴です。牛の餌が変わると味と風味に影響が出ることがあります。その点、弊社の製品は安定しているので、味に敏感な小学生にはそれが伝わるようです」


現在、トモヱ乳業における生乳の購入量は年間約13万トン。牛乳1Lパックで換算すると約1億3,000万本に上り、1か所の牛乳工場では全国トップクラスの生産量を誇ります。「牛乳は農作物と同じで腐敗しやすいという性質があるため、衛生面での設備投資は惜しみなく行っています。特に第2工場では人の手をなるべく介さない自動化を徹底しています。牛乳パック12本分を収納するプラスチックケースも自動で高圧洗浄し、それをカメラで撮影して汚れが残ったものや欠損があるものは分別されます。汚れが残ったものは、洗い直しをしています。」


パックに充填された製品はプラスチックケースに収納され、立体倉庫へ。ほとんどの作業が全自動によって行われている。
生乳の細菌数、体細胞数を高解像度顕微鏡で検査したり、官能検査室では、前日の牛乳と味に変化がないか実際に味わって検査をしたりします。

父から息子へ受け継がれる経営理念

俊之さんが現在も大切にしているのが、父・俊男さんが掲げた経営理念「産業の中に文化あり・医食同源・安全で安心な牛乳・乳製品等を通して社会に貢献します」だと言います。「もともと私は循環器内科として病院で患者の診察に励んでいましたが、2007年に父が倒れたのをきっかけに後を継ぐことになりました。父はよく『牛乳は薬と同じで、我々は健康に携わっているのだから、社員は誇りを持って働いてほしい』と言っていました。私が継いだからには健康面から牛乳の魅力を多角的に発信していきたいと思っています」。俊之さんが入社してからは社内に診療所を設け、350人の社員全員の健康診断とインフルエンザの予防接種を自ら行っていると言います。

古河市の周辺地域では学校給食でおなじみの「ふるさと牛乳」。バランスの取れたすっきりした味わいと、後味に残るほのかなコクが特徴。
人気のカップ入乳飲料はミルクたっぷりカフェラテ、カフェ、カフェ砂糖不使用、キャラメル、京都宇治抹茶、贅沢いちごの6種の味で展開。「LATTE&」シリーズは280mLとたっぷりサイズが好評。

健康飲料としての牛乳の価値を広めるため、最近では「ふるさと牛乳」のパッケージを活用して「カルシウム女子」と題したキャンペーンを実施しています。「女性は閉経後に極端に骨密度が低下するので、若いうちに牛乳を摂取することが大切だということを伝えています。他にも医大の先生と協力して牛乳が健康に及ぼす影響について調査しています。将来的には健康関連の商品をつくりたいですね」


前述の経営理念の一つである「産業の中に文化あり」については、工場内に併設された「牛乳博物館」がそれを体現しています。「父が生涯かけて集めた150都市5,000点以上のアイテムが展示されています。酪農文化を広めたいという気持ちからつくった博物館ですが、これまでさまざまなメディアに取り上げられてトモヱ乳業の名を広めてくれました。将来は独立した施設にして、酪農・乳業について体験できるテーマパークのようなものもつくりたいと考えています」

牛乳博物館では紀元前のメソポタミア文明から明治時代の牛乳缶、スイスのアルプホルンまで、世界150都市から集められた乳業に関する品々を展示。幼稚園児からお年寄りまでが見学に訪れる。
放牧に使うカウベルだけでもたくさんの種類がある。ほかにも牧草づくりのための工具や牛用の医療器具など珍しい道具が並ぶ。

現在、俊之さんは俊男さんから受け継いだ経営理念をベースに「トモヱデザイン2030」を掲げています。2030年までに実現したい目的の最上位には「感謝しあえる会社とする」というスローガンがあります。「感謝しあえる会社にするためには、社員の健康、社員の成長、社会貢献としてのSDGsの実現が必要と考えます」


家族のように社員の健康を気遣い、地域の子どもたちに酪農や乳業の取り組みを伝え、地域一体を牛乳でつなげているトモヱ乳業。先代のトモヱスピリッツはバトンをつなぎながら、これからもこの地で羽ばたき続けることでしょう。


文/久保寺潤子 写真/藤本賢一

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