地域の生産現場から
生産者と近いというメリットを、新鮮な牛乳づくりに昇華/ひまわり乳業(高知県南国市)
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美味しさの基準は人それぞれ。それでも、牛乳は新鮮であるほど美味しい――そんな想いから、搾乳してから店頭に並ぶまでのスピードをできる限り短くし、業界で初めてパッケージに搾乳日を表示して販売したのが高知県のひまわり乳業です。毎日、地域の人々に飲まれるだけでなく、愛飲者は大阪や東京にも。地理的条件が有利とは言えない高知県から、いったいどのような仕組みで東京や大阪にまで新鮮な牛乳を出荷しているのでしょうか。
ひまわり乳業が本社工場を構えるのは高知市の東、県下有数の酪農地帯である南国市。社長を務める吉澤文治郎さんはまず、牛乳の原料である生乳を貯蔵するミルクタンクを見せてくれました。100トンほどのタンクを効率的に使う企業もあるなか、ひまわり乳業はあえて10〜20トンの小さなものを使っています。常に新鮮な生乳から牛乳をつくりたいと考えているからです。


乳業メーカーによっては全国から生乳を集め、工場へ運び込みます。工場へ送る前にクーラーステーションで一時的な保管・冷却を行う場合もありますが、ひまわり乳業では、近隣の牧場から直接工場へ生乳を運び込み、小さなタンクで先入れ先出しを徹底しています。この回転率の高さが、新鮮な牛乳づくりにつながる理由の一つです。
地域とのつながりが強いからこそ、速さで勝負ができる
「どこよりも新鮮で美味しい牛乳を届けたい」、という想いから誕生したのが『乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳』。深夜に集乳して殺菌・充填、同日の朝6時には出荷するという、驚くようなサイクルでつくられています。県内や四国地方では朝~午前中に、大阪くらいまでなら当日のうちに店頭に並ぶそうです。鮮度への絶対的な自信が可能にしているのが、「搾乳日」の表示。牛乳のパッケージには基本的に消費(賞味)期限が記されていますが、『乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳』では製造年月日や搾乳日までも明記しているのです。


ひまわり乳業は1922年創業。乳牛と山羊を飼育する吉澤牧場としてミルクの処理・販売を始め、1937年には他の牧場と合同で高知牛乳卸商業組合を設立。法人化してからも高知県酪農協会をつくるなど、地産地消という言葉が生まれるずいぶん前から、地域密着型企業として高知県の酪農と乳業を牽引してきました。しかし、1980年代には本州と四国を結ぶ橋が開通し、大手メーカーの牛乳が県内の市場に並び始めます。
牛乳の付加価値について考えたとき、一般的には「産地ブランド牛乳」として高く販売する方法があります。しかし、高知県の場合は「カツオ」などのイメージが強く、「高知=牛乳」という印象がないため、産地ブランドとしての価値を打ち出すのは難しい。そこで、ひまわり乳業としてどのような独自の価値を創出できるかを考える必要がありました。
「市場環境がぐるりと変わり、大都市と勝負ができる商品をつくらねばと自社の強みを今一度問い直しました。私たちの強みは酪農家さんとの近さ。何より大切にしてきた酪農家さんとの関係はどんなに大きな会社にも劣らないと考えました」と、吉澤さんは語ります。
時代に合わせて他社と同じように効率化を図るのではなく、生産者とのつながりをより強めてともに生み出した『乳しぼりをした日がわかる低温殺菌牛乳』は、2014年に「フード・アクション・ニッポン・アワード」流通部門で優秀賞を獲得しました。


「ひまわりさん」と呼ばれ、地域で愛され続ける理由
生産者と連携して実現するのは、スピードだけではありません。高知は山がちな地形を生かし、できるだけ自然に近い状態で飼育する放牧酪農「山地酪農(やまちらくのう)」の発祥地。生産者の個性を活かした牛乳づくりに取り組んでいます。
「たとえば、もう50年ほどの付き合いになる南国市の斉藤牧場さん。山地酪農はどんどん少なくなっていますが、そんななかで山地酪農を追求する斉藤牧場は聖地のような存在です。乳量が少ないので集乳して殺菌・充填を行うにはロスもありますが、地元の乳業メーカーとして、全国に誇れる酪農家さんを応援したいという一心で製造しています」と吉澤さんは語ります。



斉藤牧場の生乳は『ホモジナイズ処理』を行わず、搾りたての風味を味わえるよう工夫しています。「生乳に含まれる脂肪球を細かくするホモジナイズ処理を経た牛乳は飲みやすくなりますが、ミルクのコクや濃厚さを感じにくくなってしまいます。搾りたての味を感じていただけるように殺菌・充填しています」と吉澤さんは続けます。 一方、生乳を届ける斉藤牧場の斉藤佳洋さんはこう話します。「うちの牛乳を美味しいと飲んでいただけるのは、ひまわり乳業さんがノンホモジナイズで低温殺菌の牛乳を特別につくってくれているからです。牛乳1本あたり2〜3秒で殺菌できるところを、30分という手間暇かけて牛乳にしていただいています。うちの牛乳が1本できる間に、通常の牛乳を400〜600本つくることができます。乳量が落ちて厳しい時期も、なんとか軌道に乗るようになった今も、変わらず手間暇かけてつくってくれているひまわりさんのおかげで、みんなに評価していただける牛乳になっているんだと思います」

飼料に関する取り組みもあります。高知市で山地酪農を営む岡崎牧場では、ひまわり乳業からの提案で遺伝子組換えをしていない飼料を使っているそうです。そして、PHF(ポストハーベストフリー)の飼料で育てた牛の生乳だけを使用してできたのが『まごころ牛乳』。「輸入ものの飼料は遺伝子組み換えの面で気にされるお客様もいるため、安心して牛乳を飲んでいただきたいと開発しました。飼料を変えることは酪農家さんにとって大変なことで、気軽に提案できることではありませんが、今までの関係性があり岡崎牧場さんに快諾していただきました」
課題先進国である高知だから生まれた商品
高知で100年以上続くひまわり乳業は、ロングセラー商品を生み出しながら地域課題にもアプローチしています。2023年に誕生した「とろみ ひまわりミルク」は、医療関係者との会話から生まれた商品。高齢化が進む日本では誤嚥性肺炎が増えており、高知県も例外ではありません。「牛乳はとろみを付けにくい食べ物です。誤飲が起こるのは病院よりも在宅療養のタイミングだと聞いて、小さな子どもからお年寄りまで安心して飲めるように開発しました」

約80種類の商品はすべて、ひまわり乳業の企業理念である「自然・健康・地域」に基づいて開発しています。搾りたての生乳や無農薬の野菜など、なるべく自然の状態に近い地域のものを使った商品で、地域の人々の健康を支えています。


県内での学校給食用牛乳のシェアは 75%。高知県民の多くが子どもの頃から慣れ親しんできた『ひまわり牛乳』は、まだ経営が大変だった頃に大きな商談を決めた帰り道に、創業者である吉澤さんの祖父が妻に買ったひまわりのブローチが由来しています。ひまわり牛乳が主力商品になると、地域の人からは親しみを込めて「ひまわりさん」と呼ばれるようになり、1983年に社名を「ひまわり乳業」に変更しました。ひまわりは、吉澤さんたちにとってお守りのような存在です。

「高知で育ててもらった会社なので地域へ恩返ししていきたい気持ちは変わりません。四国の外での販売量が増えたことで、安く大量に商品を作れないかというお話をいただくこともありますが、今までと同じように私たちの企業理念を理解してくれる人とのつながりを大切にしていきたいと思います」
時代や環境が変わっても、大切なものは変わらない。一貫して地域を大切にしてきたひまわり乳業は、これからも地域に根ざした企業として新鮮で美味しい牛乳をつくり続けます。
文・写真/かずさまりや




