地域の生産現場から

十勝の真ん中から「まっすぐ」な牛乳を届ける/よつ葉乳業(北海道音更町)

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日本一の生乳生産地、北海道・十勝地方に旗艦工場をもつよつ葉乳業。同社が掲げるコーポレートスローガン「北海道のおいしさを、まっすぐ。」には、3つの想いが込められています。その3つの「まっすぐ」をキーワードに、独自の成り立ちから多くのファンを惹きつける理由まで、半世紀以上にわたるよつ葉乳業の歩みとその背景を辿ります。

北海道・十勝地方のほぼ真ん中に位置するよつ葉乳業十勝主管工場は、牛乳やバター、脱脂粉乳など、7つの製造施設を擁する広大な工場。毎日ミルクローリー150台分、およそ1,800トンの生乳が集まります。「工場の50キロ圏内から、毎日新鮮な生乳が運ばれてきます。良質な生乳を最大限に活かして牛乳・乳製品をつくるために集乳効率と鮮度をとても重要視しています」。案内してくれたのは、十勝主管工場総務部の平塚弓枝さん。「コーポレートスローガンの『北海道のおいしさを、まっすぐ。」には、製品づくりに向き合う『3つの想い』が込められています」と語ります。

北海道の酪農家の想いを“まっすぐ”に受け継ぐ

1つ目の想いは、よつ葉ブランド製品の原料の生乳、乳原料はすべて『北海道産』であること。「北海道産の生乳を使うことが、北海道の酪農家の会社として生まれたからこそのこだわりです。」と平塚さん。その姿勢は、よつ葉乳業の成り立ちに深く根差したものでした。


よつ葉乳業の始まりは、1960年代、酪農家たちの挑戦にありました。当時、生乳価格は乳業メーカー主導で決められ、酪農家の立場はとても弱いものでした。搾った生乳は牛乳缶に入れて井戸水や川で冷やしておき、乳業メーカーが集乳に来るのを待つのです。しかし、牛乳缶を空けなければ次の搾乳ができず、製品の需要が少なくなった際には安値で引き取られることも少なくなかったそうです。


こうした状況の中、「自分たちが育てた牛の乳を、自分たちの手で加工し、届けたい」という強い想いから、酪農家たちが立ち上がります。1967年、創業者となる太田寛一さんのリーダーシップのもと、十勝管内8農協の出資による「北海道協同乳業株式会社(現・よつ葉乳業)」が誕生しました。当時、東洋一の規模を誇った工場で、バターや脱脂粉乳の製造が開始されました。


酪農家自身が工場を創業し経営するというこの挑戦は、価格形成や流通を他者に委ねてきた時代からの転換点であり、酪農家たちの「自立」の宣言でもありました。


よつ葉ブランド製品の原料の生乳、乳原料をすべて北海道産とすることへのこだわりは、そうした酪農家たちの牛乳・乳製品に対する「まっすぐ」な想いを受け継いできたものなのです。

工場の入口に掲げられているまっすぐな道の写真は、北海道宗谷地方にて撮影した実在の風景。よつ葉ブランドの姿勢を表現している。
朝からひっきりなしにやって来るミルクローリー。受け入れ検査施設(写真右側)に向かっている。

“まっすぐ”な思いで、製品づくりにこだわる

牛乳事業が始まったのは1969年。当時は乳脂肪分を調整した加工乳が当たり前とされていた中、よつ葉乳業は、日本初の成分無調整牛乳「よつ葉3.4牛乳」を世に送り出します。それは、原料の良さをそのまま届け、本物の牛乳の味を知ってもらいたいという、酪農家たちの純粋な想いから生まれた挑戦でした。


また、ビン容器が主流だった時代に紙パックを採用したことも、流通を大きく広げる転機となりました。回収の必要がない紙パックは輸送効率を高め、十勝から遠く離れた地域へも牛乳を安定して届けることを可能にしました。


紙パック牛乳は、1964年の東京オリンピックの際に選手村などで使用されたのが日本での初登場といわれています。しかし当時は技術や流通面での課題も多く、一般には普及しませんでした。そうした中で、紙パック牛乳を日本で初めて商業的に成功させたのは、他でもない、よつ葉乳業だったのです。


1970年代には、安全な食品を求める消費者による「共同購入運動」が広がります。「子どもに安心して飲ませられる牛乳を」と、とりわけ都市部の母親たちが、よつ葉乳業の牛乳に注目したのです。本州への流通網が整っていなかった時代、十勝の工場までリュックを背負って買い付け依頼に訪れる人もいたといいます。数軒分をまとめて購入し、各家庭の軒先まで届ける共同購入という形は、やがて全国で約40万世帯が参加する大きな広がりとなりました。こういったさまざまな取り組みが、2つ目の想い「お客様に『まじめで誠実』であること」につながっています。


「消費者からの声を製品づくりに活かし、ともに手を携えて作ってきたからこそ、今のラインナップがあるのです」と、平塚さんは話します。よつ葉の顔ともいえる「特選よつ葉牛乳」は、厳選された生乳を使用し、乳脂肪分3.7%以上に保つ、まさに「特選※」という名にふさわしい製品です。生乳を120℃2秒間という一般的なUHT牛乳より10℃低い温度で殺菌し、加温を最小限に抑えることで、牛乳本来の風味を損なわずに仕上げています。


※全国飲用牛乳公正取引協議会が定める優良表示基準をクリアした、乳質・成分に優れた生乳を使用した証。特選の生乳のみを原料につくられた牛乳類だけが「特選」と表示できる。


牛乳を飲む人に対して誠実であり続け、求められる本物の牛乳を「まっすぐ」に届けること。その姿勢こそが、よつ葉乳業の牛乳のおいしさの根幹にあります。

乳質に優れた生乳を厳選して使用する「特選よつ葉牛乳」。
ミルクローリー1台ごとにサンプルを採取し、厳格な受け入れ検査を行っている。
生乳の乳質検査結果を1台1台確認して、牛乳向け、チーズ向けなど最適な製造工場へ配車していく。
牛乳の製造ライン。工場見学ではガラス越しに、牛乳やバターの製造過程を見ることができる(提供:よつ葉乳業)。

酪農家の想いを消費者へ“まっすぐ”に届ける

3つ目の想いは「酪農家とお客様を結ぶ『架け橋』であること」。おいしい牛乳を作り続けるためには、良質な生乳の生産が何より欠かせません。それは、酪農家の日々の努力の積み重ねによるもの。よつ葉乳業では、そうした酪農家と日常的にコミュニケーションを重ね、二人三脚で課題に向き合いながら、ともに酪農業を支えてきました。


その企業姿勢を象徴しているのが、「酪農部」の存在です。酪農現場に足を運び、酪農家それぞれの経営状況に応じたサポートを行う専門部署です。


酪農部の横井允雄さんの案内で、工場から車で約30分の場所にある、國井牧場(士幌町)を訪ねました。

朝夕2回の搾乳によって、一日あたり約4,000リットルの生乳が搾られている。
生乳はすべて十勝主管工場に運ばれ、「特選よつ葉牛乳」などの原料となる。

國井牧場は、5代目となる國井宏諭さん・絵梨子さん夫妻が営む家族経営の牧場です。明るく開放的な搾乳牛舎には、110頭の牛が飼育されています。國井さんが大事にしているのは、牛にとってストレスの少ない環境づくり。寝わらのこまめな交換や、換気、温度管理、自動給餌機を用いた餌の量の調整など、牛一頭一頭の体調に合わせた飼育が行われています。飼料にもこだわり、良質な自給飼料(牧草とデントコーン)を生産し、それを中心に、牛の健康を第一とした給餌管理を行っています。


こうした酪農家の日々の取り組みをサポートしているのが、酪農部の横井さん。獣医学や経営学などの専門的な知見をもとに助言や支援を行っています。「牛や飼料のことから経営のことまでトータルで相談できる、酪農を続ける上で欠かせないパートナーです」と、國井さんは横井さんに全幅の信頼を寄せています。


よつ葉乳業にとって、酪農家は単に原料を供給するだけの存在ではなく、ともに酪農業や牛乳・乳製品の価値を高めていく仲間です。大事なのは、現場で積み重ねられてきた工夫や想いを、製品としてかたちにし、消費者に伝えていくことだと考えています。横井さんは、「酪農家さんの努力を、きちんと製品の価値として伝えることが、私たちの役割です。酪農家さんの声を、牛乳を飲んでくださる方々に届ける、橋渡し役でありたいと考えています」と熱く語ります。


國井さんは、よつ葉乳業が企画する消費者との交流会にも積極的に参加しています。この企画は、酪農家と消費者を直接つなぐための取り組みであり、酪農家自身が言葉を届ける貴重な機会となっています。「酪農家さんの言葉には、やはり力があります。それに、消費者の『おいしい』という声は、やはり酪農家さんたちに直接聞いてほしいですね」と横井さん。「そんな消費者の方の声を聞くと本当に励みになります」と國井さんも笑顔を見せます。


酪農家と消費者をつなぐ架け橋となること。よつ葉乳業は、その役割を「まっすぐ」に果たし続けています。

よつ葉乳業酪農部の横井允雄さんと、國井牧場の國井宏諭さん・國井絵梨子さん夫妻。
牧場の畑で栽培する牧草とデントコーンなどを組み合わせた飼料。牧草の収穫時期には、畑に出て自らその味を確かめる。
「寝わらが汚れていると牛が寝てくれないんです」と絵梨子さん。牛がリラックスして過ごすことが、生乳のおいしさにつながっている。

「搾った生乳を一滴も無駄にしない」という覚悟

よつ葉乳業の原点にあるのは、「搾った生乳を一滴も無駄にしない」という揺るぎない姿勢です。牛乳の消費が落ち込む時期でも、酪農家が安心して搾乳に専念できるよう、その受け皿として、工場の増設や設備投資などを行い、牛乳・乳製品の加工・保存能力を高めてきました。工場は365日稼働し、年末年始も止まることはありません。総務部の平塚さんは、「生乳を余らせずに受け入れるための工場づくりは、『安心して搾ってください!』という酪農家さんへのメッセージなんです」と、その姿勢を語ります。


2018年の北海道胆振東部地震の際には、停電のため多くの施設が操業停止を余儀なくされる中、自家発電により操業を継続し、行き場を失った生乳を受け入れ続けました。それは北海道の酪農家とともにある工場としての「まっすぐ」な姿勢の表れでした。

十勝主管工場総務部の平塚さんと、広報社員として牛乳・乳製品の魅力を発信しているコーポレートキャラクターの「みるる」。
工場見学がスタートする「まっすぐ館」では、酪農家の想いを伝える展示も充実している。
敷地内にある液化天然ガス(LNG)の貯留施設。万が一の停電に備えて自家発電設備を整備し、その燃料をLNGに転換していくことで温室効果ガスの削減にも取り組む。

よつ葉乳業が大切にしてきた3つの「まっすぐ」。それは、創業以来、北海道の酪農家とともに、牛乳を飲む人のことを思いながら積み重ねてきた、日々の実践の中で育まれてきた姿勢そのものでした。そして、それをこれからも貫いていく覚悟こそが、よつ葉乳業のものづくりを支える原動力なのです。


文/山本学(チームヤムヤム) 写真/歌野毅

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