地域の生産現場から

酪農家の心を食卓へ―。酪農専門農協が目指す、地域で愛される牛乳 / 大山乳業農業協同組合(鳥取県琴浦町)

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私たちが日々口にする、一杯の牛乳。その一滴は、酪農家が牧場で乳牛を育てることから始まり、加工、販売へとつながる道のりを経て食卓へ届きます。生産から加工、販売までを一貫して担うのが大山乳業農業協同組合。鳥取県内すべての酪農家が出資する酪農専門農協として、「酪農家の心を食卓へ―」を掲げ、牛乳づくりを続けています。現場と一体となった強みと、おいしさを追い求める思いに迫りました。

小さな県だからこそ、一つにまとまる

辺り一面が銀世界となった冬の鳥取県。日本海と中国地方の名峰・大山に囲まれた自然豊かな琴浦町に、鳥取県内すべての酪農家が出資する大山乳業農業協同組合(以下、大山乳業)の本所工場があります。工場見学用の入り口を入ると、マットやエレベーターの扉には商品のパッケージデザインがあしらわれ、下足箱の棚には牛乳にまつわる豆知識が並んでいます。訪れる人を迎える空間の随所から、牛乳づくりへの思いが感じられました。


「私たちは、酪農の牛乳生産から加工処理、販売までを一貫して担う酪農専門農協です。私自身も祖父の代から酪農を営む家に生まれました。酪農現場のことを理解しているからこそ、酪農家が心を込めて搾った生乳を牛乳にしてお客様に届けるという思いが、組織全体にあります」

徳丸常務も酪農家出身。組合長も酪農家から輩出し続けている。
下駄箱にもお客様に楽しんでもらうための一工夫するのが大山乳業流。
看板商品の「白バラ牛乳」のデザインをあしらったエレベーターの扉。

笑顔で出迎えてくれたのは、同組合で常務を務める徳丸洋一さん。大山乳業は酪農家が乳業工場を持ち、牛乳の販売までを行う酪農専門農協で全国的に珍しい存在です。その歴史は80年前にさかのぼります。前身は、32人の酪農家が出資して作った伯耆酪農組合。当時、生乳を安価で取り引きされていたことから、自らの生乳の価値を高めようと立ち上がったのが始まりでした。その後、県内の組合が合併し、現在の大山乳業が誕生しました。現在は県内のすべての酪農家135人が組合員(84戸の出荷戸数)になっています。


「県内で一番遠い酪農家からでも2時間以内に出荷された生乳がここに集まります。鳥取県産生乳と謳えることも大きな強みですし、鮮度の高さにもつながっています。小さい県ですが、だからこそ一つにまとまって取り組める強みがあります」

安心安全でおいしい牛乳を作るため、徹底した衛生管理を行っている本所工場。

一体感のある牛乳づくりによって、コクがありながらもほんのりとした甘みとすっきりとした味わいの牛乳がつくられています。大山乳業を代表する看板商品が「白バラ牛乳」。県内すべての小・中学校の学校給食に採用されており、多くの鳥取県民が親しんできた存在といえるでしょう。


「白バラという名前は、自分たちの商品に何か名前をつけたいということで1952年ごろにつけられたそうです。『純粋』『正直』『私はあなたにふさわしい』という花言葉のように、真っ直ぐ良い牛乳を作っていきたいと意味が込められています」

赤と白と緑の色合いのデザインが印象的な「白バラ牛乳」。

酪農家との距離の近さ。専門農協だからこそできること

生産から販売までの一貫した牛乳づくりがおいしさの秘密だとすれば、その原点である酪農家の現場にも足を運びたい。本所工場から車で約15分。冬の澄んだ空気の中に広がる牧場「ハッピーフィールド」で、酪農家の福田寛さんに話を伺いました。


「祖父の代から始まり、父が30頭ほどで営んでいた牧場を継ぎました。今は120頭まで増えています。鳥取は自然が豊かで空気もきれい。大山があるから水もきれいです。そうした環境で育った牛からは、やはり良い乳が出るのだと思います。それに、手をかけた分だけ牛は応えてくれる。手をかけた分だけ、牛乳の味になると思っています」

良質生乳出荷者の表彰を何年も受賞している福田さん。丁寧な仕事ぶりが光る。
事業規模拡大を目指し、20年前に建て直したという福田さんの牛舎。

穏やかな笑顔の奥に、確かな自負がにじみます。おいしい生乳を搾るための管理に妥協はありません。牛舎を常に清潔に保ち、餌は自給飼料にこだわります。トウモロコシを乳酸発酵させたサイレージを活用し、一年を通じて安定した飼養を行っています。排泄物も堆肥として循環させ、牛にも自然にも配慮した酪農を実践しています。


「一番大切にしているのは牛の健康管理です。病気になると乳質にも影響しますし、その兆候をいち早く見つけることが重要です。毎日の観察は欠かせませんし、搾乳時には乳頭を丁寧に洗浄しています。そうすることで乳房炎の予防にもつながります」


牛乳の味わいを左右する指標の一つが「体細胞数」です。数値が低いほど、えぐみの少ないすっきりとした味わいになるといいます。


「鳥取県は全国的に見ても体細胞数が低い地域ですが、福田さんの生乳はその中でもトップクラスです。中国生乳販連の良質生乳出荷者表彰で最優秀賞に選ばれるなど、牛の管理が非常に行き届いています」


そう話すのは、大山乳業酪農指導部の浜川洋子さん。大山乳業ではエリアごとに担当者を配置し、定期的に酪農家を訪問。飼養管理の相談から経営面の支援まで行う体制を整えています。専門農協ならではのきめ細かな支援が、現場を下支えしています。ちょうど取材で牧場を訪れた際に、福田さん夫婦と一緒に出迎えてくれた浜川さんとのやりとりを見ていて、家族かと勘違いしてしまうほどの自然さに、日頃から酪農指導部と酪農家との良好な関係づくりを感じました。


「酪農専門の農協だからこそ、より専門的な支援を受けられます。私たちの思いも汲み取ってくれますし、安全・安心をお客様に見える形で示してくれ、牛乳に価値をつけてくれる存在です。だからこそ、もっと良い生乳をつくろうと日々向き合っています」(福田さん)

右からハッピーフィールドの福田寛さん、妻の恵子さん、大山乳業酪農指導部の浜川さん。

こうした丁寧な現場との連携の積み重ねにより、鳥取県は乳牛の健康状態を測る「牛群検定」の実施率が24年連続で全国1位に輝いています。毎月1回、各酪農家が搾っている全頭の生乳サンプルを検査。乳量、乳脂肪やタンパク質、無脂乳固形分などの乳成分ほか、風味にも影響する体細胞数などをデータに取ることで、牛の健康管理や繁殖管理に活かすことができます。「ここも酪農専門農協である我々の強みだと思っています」と徳丸さんは胸を張ります。

生乳サンプルを毎月検定し、牛の健康状態などをしっかりと把握。

「1975年に始まった検定も、当時は6割程度しか実施していませんでした。もちろん美味しい生乳を出荷する目的だけでなく、牛が病気にならないことで経営改善にもつながるし、後継牛を生産する時も交配の判断材料にもなる。そういった検定データ活用の重要性を酪農指導部が酪農家さんにじっくり伝えてきた証だと思っています」


酪農家が集まってできた組織。「白の一滴、心の一滴 −酪農家の心を食卓へ−」という理念のもと、酪農家がやりがいを持って働きやすい環境づくりには余念がありません。


「販売まで組合がやっているので、どこにどれだけ自分たちの牛乳が売れているかを酪農家自身がわかる。これで『自分たちの牛乳を売っているんだ』という意識も高いんです。」

知ってもらい、飲んでもらって、愛される牛乳になる

お客様のニーズに合わせて多種多様な商品を開発してきた大山乳業。

いかに牛乳を愛してもらえるか。その問いに向き合い続けているのが大山乳業です。主軸の「白バラ牛乳」をはじめ、「白バラコーヒー」「白バラフルーツ」といった定番商品に加え、冬はココア、夏は紅茶など季節に合わせた乳飲料も展開。販売先の消費者層やニーズに応じた商品開発にも積極的に取り組み、現在では約250種類の商品を手がけています。


「10年前の組合創立70周年記念式典が、一つの転機でした。その頃、改めて“白バラブランドをもっと愛されるブランドにしよう”と考え始めたんです。式典の記念品として白バラ牛乳のパッケージをポチ袋にして配ったところ、『かわいい』『販売してほしい』という声が多く寄せられました。実際に販売してみると、想像以上の反響がありました」


この出来事をきっかけに白バラ牛乳のグッズ展開がスタートしました。職員によるブランディングチームが立ち上がり、文房具などの定番商品に加え、毎年新たなアイテムを企画・販売しています。商品そのものだけでなく、その背景にある価値や物語を届けることで、組合内外に向けて大山乳業のファンを増やしていく取り組みが続いています。


「グッズは鳥取県でしか買えないので、ぜひ足を運んでもらうことで鳥取の良さを知っていただきたいという思いもありますし、グッズがお土産になったらそれも牛乳のPRの一つになります。最初はファンが全国に広がるとは思ってもみませんでしたが、それもきっかけですから。グッズもだんだんと定着し、SNSも10万人以上のフォロワー数になりました」

本所工場横にある直売所では、オリジナルグッズも購入でき、人気を集めている。

また、年に一回行う「大山まきば祭」は、酪農家との搾乳対決や牧草ロールのペイント、バター作り体験など多彩な催しを用意した交流イベントで、3,000人もの来場者が足を運びます。こうした鳥取県民をはじめとした「白バラファン」の皆さんに愛される牛乳を目指す取り組みなども大切にすることで、「今の大山乳業があります」と徳丸さんは話す。


「数年前から、全国的に飼料価格や生産資材の高騰によって酪農経営が厳しくなり、酪農家へ支払う乳価が値上げされました。そうした影響で、牛乳の店頭価格も大きく上昇しました。牛乳だけでなく、他にもいろんな商品も値上がりして、牛乳消費が減っている中でしたが、白バラ牛乳の鳥取県内での販売数量の落ち込みは最小限にとどまりました。本当に驚いたのと、うれしかったですね。こんなにも地元の人たちに愛され、支えてもらっているんだと感じました」


地元の食卓に根づいた一杯の牛乳。その背景には、酪農家の誇りと、それを支える組織の覚悟がありました。「白の一滴、心の一滴」。その言葉通り、酪農家の思いが込められた牛乳が、今日も食卓へと届けられます。


文・写真/藤田和俊

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