最高の一杯を楽しむ

牛乳が生まれる場所を訪ねて、心と体が目覚める“朝の一杯”/富山・ゆ〜とりあ越中で味わうとやまの牛乳

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お風呂上がりに、旅の途中に、目覚めの食卓で——。牛乳は、いつ、どんな場所で飲むかによって、味わいの豊かさが変わります。牛乳をよりおいしく楽しめる”最高の一杯”を求めて、日本各地を訪ねました。

柔らかな光が差し込む朝食の席で味わう一杯。新鮮さが伝わる、混じり気のない白さ。

究極の“朝食の一杯”。


そんな牛乳を求めて訪れたのは、富山市郊外、神通川の渓谷沿いに佇む温泉宿「神通峡 春日温泉 ゆ〜とりあ越中」です。「富山の自然(いのち)と生きる宿」をコンセプトに、四季折々の里山の風景と地元の食材を生かした料理でも知られるこの宿では、朝食前のひとときに、特別な体験が用意されています。


朝食前の牧場見学で、より特別な一杯に

朝7時半。宿から車で10分ほどの舘牧場の牛舎では、62頭の乳牛がのんびりと干し草を食んでいます。ほどなくして、天井に取り付けられたレールを移動型ロボットが動き出し、搾乳作業がスタートしました。搾乳は毎日朝晩の2回ずつ。ゆ〜とりあ越中では、希望する宿泊者を対象に朝の搾乳見学会を実施しています。


「この牛は産んで10日ほどやね」「こいつは食べすぎて、お腹パンパンや」「あの子は餌さえあれば幸せで、おとなしいやっちゃね」


牧場代表の舘知志さんが、一頭一頭に愛情あふれる眼差しを注ぎながら、牛たちの様子を解説してくれました。


「牛によって、骨格も気質も乳量も違う。それぞれの個性を見極めて、ストレスない環境で育ててあげることで、お乳の出も味わいも変わってくるんよ」

搾乳時間は、1頭につき約5分。ロボットを使った搾乳は、手作業に比べて半分以下の時間で行えるという。

1頭につき年間12,000リットル搾乳されるという舘牧場の生乳は、市内の乳業メーカー“とやまアルペン乳業”に出荷され、県内で広く親しまれる「とやまの牛乳」として店頭や給食に届けられています。


「朝搾った生乳が、その日のうちに製品になる。安心・安全で、とにかく新鮮なうちに味わってもらえるのが、地産地消の強みやね」


近隣の営農組合から提供されるもみ殻を飼料に使い、牛糞は肥料として農家に提供。地域での循環農業にも取り組む舘さんは「おれが搾っとる牛乳は、間違いない」と、その品質に胸を張ります。

約20年前、酪農に魅力を感じ、公務員から就農した舘さん。毎朝6時には牛舎に入り、牛たちの世話を開始する。

作り手の顔が浮かぶ、朝食の時間

搾乳見学のあとは宿に戻り、朝食の時間です。テーブルに並ぶのは、かぶら寿司や真鱈の昆布締め、地場野菜の“おすわい”(酢和え)といった、土地のものをふんだんに生かした富山の伝統的な料理の数々。


和の朝食とともに味わう一杯には、舘牧場も生乳を提供する、とやまアルペン乳業の「とやまの牛乳」を選びました。富山の旬がたっぷり詰まった朝食に舌鼓を打ちつつ、グラスに注がれた牛乳をひと口。クセがなく、すっと体に染み込むような優しい味わいです。先ほど牛舎で見た風景と、舘さんの力強い笑顔が頭に浮かびました。

とやまの牛乳は、朝食の味となじむ優しい飲み口。
季節替わりの和御膳朝食。近隣で育てる米や有機野菜のほか、氷見の煮干しや南砺のかぶなど、富山の恵みをふんだんに盛り込んでいる。

「実際に搾乳を見たあとに朝食で牛乳を飲むと、『あの牛乳なんだ』って、ちょっと感動しますよね」。


そう話すのは、ゆ〜とりあ越中の企画開発課で働く立川夏海さん。宿泊者を対象とした搾乳見学を始めたのは、コロナ禍が明けた2023年。そのタイミングで、ゆ〜とりあ越中では、それまで弁当形式で提供していた朝食の内容を、抜本的に見直したといいます。


「この土地に根付いた文化や伝統を活かし、作り手の顔が見えるものを揃えた、他のどこにもない朝食にしようと考えたんです。単なる“地産地消”を超えて、富山の水や土に根差したものを、きちんと身体で感じていただける献立を目指しました」


その背景にある思いは“身土不二”。人間の身体と暮らす土地は一体で切り離せない、という意味を表す言葉です。お米は宿から3.5kmほどの距離にある営農組合から玄米で仕入れ、使う分だけを館内で五分づきに。素材は化学肥料や除草剤を使わない有機野菜や平飼いの鶏卵など近隣の生産者さんたちのこだわりがつまったものを使用しています。そしてその素材を一番おいしく味わってもらえるように、心を込めて調理しているそう。

立川夏海さん。大学時代は県外で過ごしたが、「富山の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」と地元にUターンした。

搾乳見学も、その流れの中で生まれた取り組みのひとつ。無償での見学の相談に、「この地域の良さを、できるだけ多くの人に見ていただきたい」と舘さんは二つ返事だったそう。見学を体験した宿泊者からは、「こんなにたくさんの牛を間近で見たのは初めて」「乳がパンパンに張っている様子に驚いた」といった声がこれまで寄せられています。


なかでも、『見学をしたことで、朝食の牛乳がよりおいしく味わえました』という感想が、いちばん心に残っていますね。この地域ならではのストーリーや背景を知ることで、料理の一品一品をよりおいしく味わっていただきたい、という私たちの想いが届いたと感じました」。立川さんはそう微笑みます。

朝食会場で提供している、とやまの牛乳。館内の売店では、とやまの牛乳や乳飲料「カウヒー」を使用した「みるくパイ」「カウヒーサンドクッキー」も扱う。

地域で愛される“モーモーちゃんの牛乳”

とやまの牛乳は、地域の人たちの毎日の暮らしにも、ずっと寄り添ってきました。


「小学校も中学校も、給食はずっと『とやまの牛乳』でした。パッケージに描かれたマスコットキャラクターにちなんで、『モーモーちゃんの牛乳』と呼んでいます。特に夏の暑い日に飲む牛乳は格別で、クラスで残った牛乳をジャンケンで勝ち取ったときは本当に嬉しかったのを覚えています」


小中学校で飲んだ牛乳の味を思い返し、立川さんは懐かしみます。学校の社会科見学でとやまアルペン乳業の工場を訪れた経験もあるといい、とやまの牛乳が、地元の人々にとっていかになじみ深い存在であるかが伝わってきます。

地元の人にはなじみ深い、とやまの牛乳。パッケージに大きく描かれた“モーモーちゃん”が目印。

良質な牧草と清らかな水に育まれた乳牛の生乳を原料に、とやまアルペン乳業が製造する「とやまの牛乳」。風味を生かすため、地域の酪農家から集乳した生乳を徹底した衛生管理のもとですみやかに処理し、丁寧に仕上げています。


そんな牛乳を、「背景ごと味わってほしい」と立川さん。「この一杯の牛乳の裏側には、牧場で働いて牛を育てる人がいて、飼料をつくる人がいて、最高の状態で飲んでいただこうとしている私たちがいて。牧場の見学を通して、改めて“いのちに感謝できる一杯”になるのではないでしょうか。この “最高の一杯”から、地域の思いやつながりを感じていただけたら、旅館冥利につきます」


牧場での搾乳見学後に飲む朝の一杯は、特別な旅の記憶として、心にそっと刻まれます。ゆ〜とりあ越中の朝食で味わう「とやまの牛乳」は、富山の自然と人の営みに触れる、究極の“朝食の一杯”なのです。

大沢野地区の里山に佇むゆ〜とりあ越中。神通峡の四季の自然のなかで、ゆったりとした時間を過ごせる。
温泉の入り口付近にある休憩所「湯上がりサロン」では、同じく富山県で親しまれる⼋尾乳業の“おわら⽜乳”も自動販売機で提供。風味豊かなパスチャライズ牛乳を、瓶で味わうことができる。
 

神通峡春日温泉 ゆ〜とりあ越中

富山県富山市春日96-1

https://r.goope.jp/chidoriyu

宿泊者対象の搾乳見学は無料(前日17時までに要予約)


文/中村茉莉花 写真/竹田泰子

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