わたしと牛乳
牛乳パックから始まった探究の旅──「命のリレー」伝えたい/小学5年生・大坂聡志さん
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ひと口の牛乳にも、物語がある。牛乳を愛し、魅力を伝えている“ミルクインフルエンサー”たちが語る牛乳愛。1杯の牛乳の向こうに広がる、味わい・出会い・ストーリーとは──。第2回は、全国の牛乳パックを収集して研究する小学5年生の大坂聡志さんに、牛乳への思いを聞きました。

すべては一つの「牛乳パック」から始まった
幼い頃から牛乳が大好きだった大坂さん。さっぱりした味わいの夏の牛乳をごくごく飲むのが好きで、朝の一杯はお気に入りのグラスで味わってきました。

“飲む楽しさ”の先へと興味が広がったのは、小学3年生の時。自宅から離れた群馬県のスーパーで手にした「みんなの給食牛乳※1」の赤いパッケージがきっかけでした。
「名札をつけた牛さんのイラストがすごくかわいらしくて。その時、ふと気付いたんです。牛乳パックって一つ一つ個性があって面白いなって。私の中でアンテナがビビビッと立った瞬間でした」
※1東毛酪農業協同組合が、群馬県の学校給食で飲まれている牛乳を、長期休み中も家庭で味わえるように同じデザインで製造・販売している商品。

この出会いをきっかけに、大坂さんの探究はぐんと深まっていきました。
成分表示の数字、フォント、上部の切欠き、製造元の名前や場所──。「隅から隅まで読み込む」ことが習慣になり、牛乳パックは“情報の宝箱”であることに気づいたと言います。
「パッケージには、生産者さんの思いや地域の物語が書かれていることもあって、毎回思わぬ発見があるんです」
週末を利用して両親と日本各地のアンテナショップやスーパーへ足を運び、新しい牛乳パックを見つけては目を輝かせる日々。やがて大坂さんは、より多くの人に牛乳の魅力を知ってもらいたいと「牛乳調査隊」と名乗った活動を始めました。小学4年生からはインスタグラムへの投稿も始め、牛乳パックのコレクションは、いまや千種類以上にもなっています。
牛乳がつないだ出会い──つくり手の思いに触れて
これまでで特に印象深かったのは、半世紀ぶりに復刻した福島県の「三春牛乳」※2。ニュースで知り、「どうしても手にしたい」と家族で福島県へ向かいました。スーパーを回って、4軒目の道の駅でようやく出会えた時には胸が高鳴ったそう。
「私があまりに一生懸命だったから、道の駅の所長さんが製造元に問い合わせてくれたんです。やっと手にしたパッケージには人の温かさや苦労も、全部詰まっています」
※2 三春町と酪王協同乳業株式会社が2025年3月、三春町合併70周年と酪王牛乳誕生50周年を記念し、復刻版三春牛乳パッケージを制作したもの。「三春牛乳」(昭和32~50年)は酪王協同乳業が出す「酪王牛乳」のルーツの一つ。

ある時には、限定パッケージを求めて問い合わせたオハヨー乳業株式会社(岡山市)から、熱意を買われて工場見学に招かれたことも。家族で岡山県へ車で向かい、現地では、工場だけでなく契約酪農家にも足を運びました。
「大坂さんは酪農家さんの「私たちは命を預かっている」という言葉が胸に残ったと言います。
旅先で牛乳を味わうことは、岡田さんにとって“土地の記憶を飲む”体験そのもの。
「牛乳って、酪農家さん、工場、運ぶ人……いろんな人の手を通って、やっと私たちに届くんだって。“命のリレー”でできていると知りました」


オハヨー乳業の契約している酪農家では牛乳への意識が変わるきっかけに(左)工場では熱心に質問を重ねました(右)(写真提供:大坂さん)
“探究”は“研究”へ──「平均」「最強」求め分析の日々
大坂さんの“探究”は、徐々に“研究”へと深みを増していきました。
これまでの探究が関係者の目に留まり学術研究集会「ジャパンミルクコングレス2024」に小学生として初めて招待され、研究成果を発表することに。700種類以上のパッケージを独自に分析し、その傾向を割り出して集約した「平均牛乳」の発表が注目を集めました。
そして2年連続で招待されて迎えた2025年は、小学校の同級生に好きな牛乳パックのアンケートを実施し、「小学生に支持される“最強牛乳”」のパッケージを制作、発表しました。
いずれの年も100人以上の牛乳関係者が、大坂さんの発表にじっと耳を傾けていたといいます。

「自分の情熱や思いを受け取ってくれる人がいて、本当にうれしかった。アンケートに『来年もぜひ参加してほしい』と書いてもらえて。牛乳を大切に思う人たちの言葉がとても響きました」
牛乳の魅力、伝え続けたい
そんな大坂さんが心を痛めているのは、学校での牛乳の飲み残しです。
「自分にできることをしたいと思って、夏の暑い日に熱中症対策に牛乳が効くというポスターを作って、学校に貼りました。その後、飲み残しゼロの日があって……本当にうれしかったです」

こうした小さな手応えを感じるたびに、大坂さんの胸の内には、一つの思いが静かに育っています。
「牛乳が手元にあるのは、決して当たり前じゃない。つくってくれる人、届けてくれる人がいて初めて、口にできるんです。その重みを、もっと多くの人に知ってほしいです」
牛乳が広げてくれた世界に恩返しをするように──。大坂さんの研究と新たな牛乳パック探しの旅は、これからも続いていきます。
文/谷岡碧 写真/松田麻樹
大坂聡志(おおさか・さとし)




